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養育費の終期はなぜ20歳?

2022.06.14更新

今年4月1日、改正民法が施行され、成人年齢は20歳から18歳に引き下げられました。

成人年齢引き下げに伴い、養育費の終期(いつまで支払うか)も引き下げになるのでしょうか。

 

成人年齢が変更になれば、養育費の終期も変更になるのが論理的に当然にも思えます。

しかし、裁判所の見解は違います。

裁判所は、改正民法施行の前から、「成人年齢が引き下げになっても、養育費の終期は変わらない」という見解を示してきました。

養育費は、子が未成熟であるから支払われるものである。

成人年齢が引き下げになっても、実態として子が未成熟であることは変わらない。

具体的には、原則的には20歳までとするのが適当である。

大雑把にいえば、以上が裁判所の公式見解です。

 

しかし、これはおかしいです。

前提として、養育費は、負担者にとっては非常に重い義務です。

一回でも支払いを遅滞すれば、最大で給料の半額まで差押えを受ける可能性があります。

一回差押えを受けてしまえば、受け取る側が取り下げてくれない限り、その後何年も差押えされたままです。

重大な財産権の侵害ですから、厳格な法的正当性が求められるはずです。

 

民法の条文上、養育費は「子の監護に要する費用の分担」(766条1項)です。

親の子に対する監護権は、親権の一部です(820条)。

子が親の親権に服するのは、成年に達するまでです(818条1項)。

成人したら、子はもはや親権には服しません。

当然、親権の一部である監護権にも服しません。

子が監護権に服さないのに、「子の監護に要する費用」の支払義務が発生するのでしょうか。

 

18歳を過ぎても親が経済的に生活の面倒を見ている家庭が多い。

これは事実です。

しかし、それは親の義務ではない。あくまで任意です。

だから、経済的に面倒を見ている家庭もあれば、見ていない家庭もあるのです。

実体として子が未成熟であることは、養育費という重い法的義務の発生を正当化しないはずです。

 

成人年齢が18歳になった以上、養育費支払義務も原則18歳まで。

18歳を過ぎても支払うのは、あくまで当事者の合意がある場合に限る。

これが原則のはずです。

法律に基づき判断すべき裁判所が、「子が未成熟だから」というような曖昧な根拠を持ち出すべきではありません。

 

18歳を過ぎ成人したら、親と子はもはや成人同士です。

その後の生活費や学費等の負担は、成人同士、当事者同士で合意するのが原則のはずです。

裁判所の見解は理屈が通っておらず、説得力にも乏しいです。

成人年齢が引き下げになった以上、養育費の終期も原則として引き下げられるべきです。

 

 

「面会交流」と「面接交渉」

2022.03.24更新

面会交流は以前、「面接交渉」と呼ばれていました。

平成23年に民法が改正される以前は、裁判所でも「面接交渉調停」と呼ばれていたようです。

今でも、面接交渉と呼ばれていた時代の離婚協議書や調停調書を見ることがあります。

 

「面接交渉」という言葉から、親子の交流を思い浮かべることは難しいです。

「面接」に「交渉」です。

就職活動かビジネス取引のようです。

特に「交渉」は酷い。

親と子で何を交渉しろというのでしょうか。

言葉から受ける印象と、意味するところがあまりにかけ離れています。

面接交渉という言葉が使われなくなったのは当然です。

改められるのが遅すぎたくらいです。

 

でも、現在の「面会交流」という語もやはり問題です。

面接交渉よりはマシですが、それでも適切とは思えません。

「交流」は良いとして、問題は「面会」です。

そもそも、親と子は「面会」するような関係ではないはずです。

 

親と子はただ会うだけの関係ではない。

子は親から物理的・社会的・経済的な庇護を受ける権利があるはずです。

親は子に上記の庇護を提供する権利と義務があるはずです。

親と子の人間としての情愛は、そのような内実ある関わりの中で育まれるはずです。

親と子がただ会うだけでは、そこで生まれるものは限られています。

 

裁判所自身、親と子がただ会うだけの「面会交流」が具体的にどのような意味を持つのか、定まった見解を持っているとも思えません。

親子双方に会いたい気持ちがあるなら会わせるべき。

その程度の考えしかないように思えてなりません。

だから、

「子が会いたくないと言っている(と監護親が言っている)から」

程度の理由で、面会交流の実施に及び腰になるのです。

親子関係は「会いたいから会う」という程度のものなのでしょうか。

 

「面会」という語にはさらに問題があります。

「面会」という日本語は「会うことを許可する誰か」の存在が暗に前提とされています。

現に、裁判所の調停では面会交流について

「甲は、乙と子が~面会交流を実施することを認める」

という言い方が一般的です。

「面会」は監護親が「認める」ものなのです。

会うのは非監護親と子なのに。

 

面会交流という語は、面接交渉よりはマシですが、やはり適切ではありません。

裁判所が使うので仕方なく従いますが、本来は別の語がふさわしいはずです。

英語圏で使われるparenting timeを訳した「親子の時間」などの方がはるかに良いと思います。

 

 

親権と監護権は分離できる?

2022.03.01更新

民法第819条
1.父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2.裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。

現在の法律では、未成年の子がいる離婚の場合、父母のどちらか一方を親権者と定めなければいけません。
一方で、民法766条は以下のように定めています。

「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」

この2つの条項を合わせると、親権者とは別に「子の監護をすべき者」を定めることも可能と読めます。
そこから出てくるのが、離婚後の「親権者」と「監護権者」を分ける、という解決方法です。
一方の親が親権者となり、もう一方が監護権者となる。
子の親としての権利を双方が持ち続けるという解決です。

実際、裁判所で、親権者と監護権者を分けるという解決が一定数なされた頃もあったようです。
しかし、現在はほぼそのような解決は取られていません。
調停委員からは何度か「今はそのような解決は勧めていない」旨の発言を聞きました。
理由としては、「親権者と監護権者を分けても、結局親権争いの解決にならないから」と言われています。
確かに、親権者と監護権者を分けても、その後に子の取り合いが続くのであれば何の解決にもなっていません。

でも、なぜそもそも親権争いの解決にならないのでしょうか。
私は、それは現行法が「子の監護をすべき者」を定めるという条文を置きながら、監護権を保障するための規定を何も置いていないからだと考えています。
監護権は条文だけあって、他に法的な裏付けが何もないのです。
あるのは当事者間の合意だけです。
合意のみなら、一方当事者が反故にすることも出来てしまいます。

当事者双方が合意できないなら仕方ない。
そういう考え方もあります。
しかし、766条にも書いてあるとおり、大事なのはあくまで子の利益です。
当事者同士で合意できなくても、親権者と監護権者を分けることが子の利益になる場合もあるはずです。
たとえば、双方が対等の立場で共同監護していくのが最適な場合などです。
その場合、当事者双方の権利も対等としておいたほうが、共同監護を続けやすいはずです。

重要なのは、離婚後の子の監護について具体的かつ詳細に決めること。
そして、その決定に法的効力を持たせることです。
まずは、「子の監護をすべき者」という法的文言の中身を充実させていくべきだと思います。

現行の離婚後単独親権制度を変更するには、色々と困難が伴うはずです。
時間もかかるでしょう。
それまでの間、少しでもより良い方向を目指すためのアイディアとして、「親権者と監護権者を分ける」案を捨てるのはもったいないと思います。

 

 

「お母さんとお父さん、どっちと暮らしたい?」

2022.03.01更新

「家庭裁判所は、親権者の指定又は変更の審判をする場合には(中略)子(十五歳以上のものに限る。)の陳述を聴かなければならない。」

 

家事事件手続法169条2項にはこのように定められています。

子のいる離婚では、裁判所は父母どちらかを親権者に指定しなければいけません。

子が15歳以上の場合、裁判所は親権者指定に際し、子の意見を聴取する義務があります。

裁判所は、15歳以上の子の意見をとても重視します。

よほどのことがない限り、子の意見通りの結論が出されます。

 

では、子が14歳以下の場合は意見は聴取されないのかといえば、そうではありません。

 

「家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(中略)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。」

 

同じ法律の65条にはこのように定められています。

年齢に関わらず、裁判所には「子の意志を把握するように努め」る努力義務があるのです。

ただし、その方法は15歳以上とは異なります。

「子の陳述の聴取」だけでなく、「家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法」による、とされています。

家庭裁判所の調査官による調査に委ねられており、何が適切な方法かは調査官が判断します。

 

小さい子は未成熟で、自分の意見を言葉に出来るとは限りません。

立場も弱く、周囲の大人の影響も受けやすい。

判断能力も未発達です。

もっとも重要なのは、子どもには責任を負わせるべきではない、ということです。

 

だからといって、大人が勝手に決めてよいわけではない。

何が子の福祉に適うのか判断するためにも、子の意思を把握するよう努力する義務がある、ということです。

 

「お母さんとお父さん、どっちと暮らしたい?」

というようなストレートな質問は通常されません。

もっと気を使った、子の福祉に配慮した聞き方などがなされているようです。

 

しかし、子にとって大きな精神的負担であることは変わりません。

子が泣き出してしまった例などを多数知っています。

もちろん、大人の責務として子の意思の把握には務めるべきです。

一方で、このような質問が不可避であり、子にとって大きな負担になっているのは、それが極めて重大な決断に直結しているからです。

本邦では、離婚に際し、どちらか一方のみを親権者と指定しなければなりません。

間を取った結論、中庸な結論は初めから選択肢にありません。

 

子に大きな決断の負担を強いるという点でも、現行の離婚後一律単独親権制度は非常に問題です。

家庭裁判所の「調査」とは何か

2022.02.23更新

離婚事件では、未成年の子の親権、監護権、面会交流などが争われることが多いです。

未成年の子は、離婚事件の当事者ではありません。

そこで、子の状況について、裁判所による調査が実施されることになります。

 

調査官という専門の裁判所職員が、調査を担当します。

調査の内容は以下のような感じです。

 

・親双方の聞き取り

・子ども本人の聞き取り

・家庭訪問(別居の場合は双方のことも)

・監護補助者(祖父母など)の聞き取り

・学校への聞き取り(担任の先生など)

 

上記以外にも、子の主治医への聞き取り調査などが実施されることもあります。

 

子の聞き取り調査では、特に「子の意向調査」の実施も求められます。

「どちらの親と暮らしたいか」

という点を子に聞くのが、子の意向調査です。

 

もちろん、このような質問をぶつけること自体、子を傷つける恐れが大いにあります。

そこで、必ずしもストレートな質問ではなく、色々と工夫した聞き方がされるようです。

 

上記のような調査の結果は、調査報告書という書面にまとめられます。

調査報告書は、結論部分に「調査官の意見」が明記される形式になっています。

この意見が、裁判官によってひっくり返されることは決して多くありません。

そういう意味で、結論を決めているのは調査官である、とすら言ってよいかもしれません。

 

調査官による調査が、その持つ重みほどに充実した内容なのか。

事実にきちんと踏み込めているのか。

本当に子供の福祉を最も重視できているのか。

疑問がないわけでは決してありません。

しかし、現実として結論自体を決めるほどの重要性を持っていることは、事前に認識しておいたほうが良いです。

協議離婚で決めるべきこと

2022.02.16更新

民法766条第1項

「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」

 

離婚には、協議離婚と、裁判所での離婚の2種類があります。

弁護士が主に扱うのは後者です。

一方、離婚全体の9割近くを占めているのは前者の「協議離婚」です。

役所に離婚届を提出さえすれば、協議離婚は成立です。

 

協議離婚の際、決めなければいけないことは何か。

それを定めたのが冒頭の民法766条1項と、親権に関する第819条1項です。

1.子の親権者となるのは父母どちらか

2.子を監護するのは父母どちらか

3.面会交流

4.養育費

5.その他子の監護について必要な事項

条文からは、最低でも以上の5点は定めないといけない、と読み取れます。

 

ところが、法律の定めに関わらず、協議離婚の実務はそうなっていません。

離婚届の書式には、1の記載欄しかありません。

2~4については記載欄すらなく、当然、2~4の事項を定めたかどうかもチェックされません。

全体の2割強しか養育費が支払われていない、とよく報道されます。

養育費について定めなくても離婚できてしまうのですから、当然です。

なぜこのような書式が現在でも使用されているのか、理解に苦しみます。

 

裁判所での離婚では、さすがに1~4すべてマストです。

養育費について定めずに離婚はできません。

このように、協議離婚と裁判所での離婚では決めるべき内容がずれているので、注意が必要です。

 

婚姻費用はいつまで遡る?

2022.02.14更新

離婚成立前に別居すると、婚姻費用の支払義務が発生することがあります。

婚姻費用とは、おおまかに言ってしまえば、収入が多い方から少ない方へ支払う生活費です。

金額は、双方の収入に応じて決まります。

 

そもそも、一方的に別居した当事者から無条件で婚姻費用が請求できるのはおかしいのではないか。

その意見は一理あります。

しかし、現に裁判所では婚姻費用請求がほぼ無条件で認められているので、その点はいったん措きます。

 

婚姻費用の金額が決まるまでには、それなりに時間がかかります。

金額が決定した段階から支払うとすると、決まるまでの期間分の婚姻費用が失われることになります。

そこで、婚姻費用は「請求時点から」発生することになっています。

金額が決まったら、請求時点まで遡って支払義務が発生することになるのです。

たとえば、請求から4か月後に月額10万円と決まったら、4か月分40万円の支払義務が発生することになります。

 

請求時点とは、単に「支払ってほしい」と言っただけでは足りません。

一番確実なのは、婚姻費用分担請求調停を提起することです。

弁護士からの内容証明郵便でも十分です。

本人からのメールでも、「婚姻費用を請求します」と明記してあれば認められるケースが多いと思います。

 

現実問題として、いったん別居が始まってしまえば、相手に婚姻費用を請求する意思があれば、逃れる道はほぼありません。

実際に請求が来てしまえば、後は結果はほぼ変わりません。

婚姻費用の支払義務が発生し、離婚までその義務は続くことを前提に、その後の選択を考えた方が現実的です。

 

なぜ離婚成立前に面会交流調停?

2022.02.01更新

家庭裁判所の調停では、離婚に関係する全てのトピックが扱えるわけではありません。

調停で扱えるトピックは、法律で決まっています。

具体的には、家事事件手続法という法律の別表第二にまとめられています。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=423AC0000000052

 

面会交流は、「子の監護に関する処分」(別表第二第3項)です。

根拠となる法律の規定は「民法第766条2項及び3項」です。

民法第766条は「離婚後の子の監護に関する事項の定め等」に関する条文です。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

その第1項で、離婚する際には「父又は母と子との面会及びその他の交流」について定める、とされています。

これが面会交流の法的根拠です。

 

民法第766条は「離婚後の子の監護」に関する条文ですから、面会交流も本来「離婚後」の話です。

ところが、実際に家庭裁判所で行なわれてる多くの面会交流調停は「離婚前」です。

離婚に先立ち、配偶者が子を連れて家を出た。

離婚協議はしているが、子になかなか会えない。

もっと子に会えるように求めたい。

そういった案件がとても多いです。

 

裁判所は、「離婚前でも面会交流調停はできます」と謳っています。

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_08/index.html

でも、これはおかしな話です。

上記の法律を読む限り、面会交流が離婚後の話なのは明らかだからです。

 

離婚後は単独親権ですが、離婚前はあくまで共同親権です。

面会交流とは、親権者でなくなった「父又は母」と子との面会であり交流です。

離婚前は双方とも親権者なのですから、本来、もう一方の親と子が会うことを制限する権利は誰にもありません。

離婚前はそもそも「面会交流」は成り立たないはずです。

 

離婚前は双方親権者なのですから、本来、「子を会わせたくない」と思う親が「会わせるべきでない理由」を主張・証明すべきです。

親には子に会う権利があるのですから、当然です。

本来、離婚前の親と子の交流に関する別の制度、別の手続きが整備されるべきなのです。

それをしないで、離婚後の制度のはずの面会交流調停で間に合わせる。

これは裁判所の怠慢だと思っています。

法律が整備されていないからといって、このような怠慢・ごまかしが許されている現状はおかしいです。

離婚後の祖父母との関わり

2021.12.17更新

離婚時には、面会交流についても定める必要があります(民法第766条1項)。

面会交流の主語は「父又は母」と「子」です。

その他の人、例えば祖父母は含みません。

 

子の親権者は父母のみであり、その他の人と子の関係は法律で決めることではない。

その建前は理解できます。

 

一方で、離婚後の子の親権者を決める際、事実上、祖父母も当事者として扱われていることは珍しくありません。

父母のどちらが親権者として適格な判断する際、考慮要素の1つに「監護補助者」があります。

離婚後、子と同居する親は1人になる。

親1人では、仕事との両立等で行き届かない面が出てくる可能性がある。

1人親を補助してくれる人は近くにいるか。どれくらい力になれるか。

監護補助者の有無や能力は、親権者を決める判断に一定以上の影響力を持っています。

そして、ここで言う監護補助者とは、事実上ほぼ祖父母のことです。

 

親権者側の祖父母の監護補助能力には期待する。

でも、非親権者側の祖父母については、まったくの無権利者として扱う。

これはフェアでしょうか? 理屈が通っているでしょうか?

 

祖父母を監護補助者として期待するのは、祖父母と孫の間には特別な関係性が存在するからです。

そうであるなら、面会交流においてもその特別な関係性に配慮すべきです。

面会交流について決める場面では、もっと祖父母はじめ親族が尊重されるべきです。

そのような方向に実務が変わっていくことを希望します。

 

「連れ去り」にあったら

2021.12.06更新

ある日、帰宅すると、配偶者と子どもの姿がない。

配偶者には連絡もつかない。

程なく、配偶者の代理人弁護士から受任通知が届く。

受任通知には、離婚の意思と、離婚成立までの間の婚姻費用を請求すると書いてある。

 

いわゆる「連れ去り」の典型例です。

弁護士のところに持ち込まれる離婚案件のうち相当数は上記のパターンです。

 

現状、「連れ去り」にあった側は圧倒的に不利です。

しかし、負けが決まった訳ではありません。

「連れ去り」にあったらまず何より優先すべきは「迅速な初動」です。

具体的には、可能な限り早期に子の監護者指定・子の引渡しを求める審判を裁判所に申し立てるべきです。

 

なぜ「可能な限り早期」か。

子の監護者を争う際、裁判所はよほどのことがない限り連れ去り自体の経緯や可否は問題にしません。

現に別居している両親を比較し、どちらが子の監護者にふさわしいか、という基準で判断します。

この比較では、連れ去られた側は圧倒的に不利です。

現に子を監護していない以上、「いかに監護者にふさわしいか」を実証するのは難しいからです。

 

注力すべきは、自分の適格性よりも、相手の不適格性です。

相手の監護の問題性です。

同居中にこのような出来事があった。

相手にはこのような問題のある特性がある。

監護を手伝ってくれる人もいないはず。

そういった事情を指摘し、子が不適切な監護のもとにある可能性を示す。

裁判所にも、問題意識を共有してもらう。

それが大事です。

 

大事なのは、裁判所に事態の重大さを認識させることです。

この人は単に配偶者との勝負でこういう主張をしているのではない、子が心配でたまらないんだ。

その切迫感を伝えることです。

そこで大事になってくるのが「可能な限り早期の申立て」です。

 

たとえば、連れ去りにあってから3か月後に申立てを行ったとします。

その場合、少なくとも3カ月間、子は相手方のもとで無事に生活してきたことになります。

申立人もその3カ月間、相手方による子の監護をそこまで問題視していなかったことになります。

ということは、監護者指定・子の引渡しを申立てたとしても、そこまで切迫していないのかもしれません。

離婚紛争を有利に進めるための戦略の一環に過ぎないのかもしれません。

 

裁判所に上記のような疑念を抱かせないために重要なのが「可能な限り早期の申立て」です。

連れ去りから申立てまでのスピード感で、裁判所に事態が切迫していることを伝えるのです。

 

もちろん、早期に申立てをしたからと言って必ず勝てるわけではありません。

しかし、まずは早期に申立てをしないと、そもそも土俵にすら立てない可能性が高い。

それくらい連れ去られた側は不利です。

不利な戦いを少しでも挽回するために、早期の申立て、その前提としての早期の相談をお勧めします。

 

男性側に立った離婚問題の解決を

一時の迷いや尻込みで後悔しないためにも、なるべく早い段階でご相談ください。