ブログ

離婚事件とメンタルヘルス

2022.06.23更新

離婚事件を一定数以上扱っている弁護士なら、恐らく誰でも気づくことがあります。

「離婚事件」と「メンタルヘルス」の密接な関係性です。

離婚事件は、当事者のいずれかにメンタルヘルスの問題がある件の割合が非常に高いのです。

 

離婚紛争は強いストレスがかかります。

離婚に発展するような結婚生活自体、大きなストレス源でしょう。

しかし、当事者のエピソードを聞く限り、多くの場合、ストレスを生んでいるのはむしろメンタルヘルスの方です。

メンタルヘルスが離婚紛争を生んでいるのです。

 

素人診断で「メンタルヘルスに問題がある」と言っているのではありません。

通院歴があり、診断名もついていて、服薬もしている。

医学的にも「メンタルヘルスに問題がある」方の割合が有意に高いのです。

それも、「少し」ではなく「驚くほど」高いです。

 

離婚事件とメンタルヘルスの密接な結びつきを知っておくことは、当事者にとって時に大きな意味があります。

離婚事件では、相手からの理不尽な要求に振り回されがちです。

そんな時、相手の要求の裏に「何らかの目的があるのではないか」と考えると、時に間違えます。

 

金目当てなんじゃないか。

家が欲しいんじゃないか。

実家もグルなんじゃないか。

不貞相手がいるんじゃないか。

 

相手が合理的に行動しているなら、その可能性はあるでしょう。

しかし、メンタルヘルスに問題がある方の場合、単にその問題の表れ、一症状に過ぎない可能性があります。

自身の内的な問題を別の形で訴えているだけで、合理的な目的などはない。

落としどころも考えていない。

 

そういうケースの場合、私はまず相談者の方に

「相手の行動を合理的に解釈するのを止めましょう。」

と伝えることにしています。

そういうケースの全体に占める割合は、恐らく想像よりずっと大きいです。

 

 

婚姻費用と「潜在的稼働能力」

2022.06.18更新

離婚に先立ち、当事者同士が別居した場合、婚姻費用分担請求権が発生します。

おおまかにいえば、収入の多い方から少ない方へ、収入と家族構成に応じた費用支払義務が発生します。

婚姻費用の金額は、直近の収入を基礎として計算します。

 

では、別居時点では収入があったが、その後、無収入となった場合はどうでしょうか。

直近まで収入があったのですから、潜在的には今でも稼得能力はあるのではないか?

婚姻費用を免れるためにわざと無収入となったのでは?

そういう疑問を持つ人もいるでしょう。

 

裁判所でも、「潜在的稼働能力」という言葉が持ち出されることが多くあります。

その時点では稼いでいなくても、潜在的には稼ぐ能力はある。

だから、一定程度の収入があるものとして扱う。

婚姻費用分担義務も課す。

そういう論理です。

 

理屈は分かります。

しかし、この論理はやはり支払う側、義務者にとって酷だと思います。

 

そもそも、婚姻費用自体、義務者にとって時に非常に酷です。

よそに恋人を作って出ていった。

家族を顧みず遊び歩いている。

そういう場合は、婚姻費用請求が認められるべきです。

しかし、大多数の場合、婚姻関係が破綻したことにつき、どちらかが一方的に悪いとは言えません。

出ていった側に対し、残された側が生活費を支払い続けるのは精神的に辛いことです。

ましてや、世の大多数の労働者は家族のために働いているのです。

その家族がいなくなったのに、なおも送金のために働き続ける。

人間の自然な生理に反すると言わざるを得ません。

 

昨年、「潜在的稼働能力」があるとして家裁では婚姻費用支払義務が認められたが、高裁で取り消された裁判例がありました。

公刊物によれば、義務者の方は別居時は働いていましたが、自殺の恐れがあるとして警察に保護されて実家に戻り、以後は就労していなかったようです。

公開されている情報だけでは、何があったかはもちろん分かりません。

しかし、家族が出ていき、自殺の恐れがあるとして実家に戻ることになり、以後働けていない方に対し、潜在的稼働能力があるとして婚姻費用支払義務を課すのは非現実的に思えます。

 

重要なのは、そもそも婚姻費用というもの自体が酷である、ということです。

この件はその過酷さが、「潜在的稼働能力」という切り口から分かりやすく露出したに過ぎないように思います。

婚姻費用支払義務を免れる目的で、収入を隠している。

算定の基準となるタイミングだけ、形式的に無収入となった。

上記のような悪質な件を除き、安易に潜在的稼働能力を認めるのには反対です。

 

 

 

養育費の終期はなぜ20歳?

2022.06.14更新

今年4月1日、改正民法が施行され、成人年齢は20歳から18歳に引き下げられました。

成人年齢引き下げに伴い、養育費の終期(いつまで支払うか)も引き下げになるのでしょうか。

 

成人年齢が変更になれば、養育費の終期も変更になるのが論理的に当然にも思えます。

しかし、裁判所の見解は違います。

裁判所は、改正民法施行の前から、「成人年齢が引き下げになっても、養育費の終期は変わらない」という見解を示してきました。

養育費は、子が未成熟であるから支払われるものである。

成人年齢が引き下げになっても、実態として子が未成熟であることは変わらない。

具体的には、原則的には20歳までとするのが適当である。

大雑把にいえば、以上が裁判所の公式見解です。

 

しかし、これはおかしいです。

前提として、養育費は、負担者にとっては非常に重い義務です。

一回でも支払いを遅滞すれば、最大で給料の半額まで差押えを受ける可能性があります。

一回差押えを受けてしまえば、受け取る側が取り下げてくれない限り、その後何年も差押えされたままです。

重大な財産権の侵害ですから、厳格な法的正当性が求められるはずです。

 

民法の条文上、養育費は「子の監護に要する費用の分担」(766条1項)です。

親の子に対する監護権は、親権の一部です(820条)。

子が親の親権に服するのは、成年に達するまでです(818条1項)。

成人したら、子はもはや親権には服しません。

当然、親権の一部である監護権にも服しません。

子が監護権に服さないのに、「子の監護に要する費用」の支払義務が発生するのでしょうか。

 

18歳を過ぎても親が経済的に生活の面倒を見ている家庭が多い。

これは事実です。

しかし、それは親の義務ではない。あくまで任意です。

だから、経済的に面倒を見ている家庭もあれば、見ていない家庭もあるのです。

実体として子が未成熟であることは、養育費という重い法的義務の発生を正当化しないはずです。

 

成人年齢が18歳になった以上、養育費支払義務も原則18歳まで。

18歳を過ぎても支払うのは、あくまで当事者の合意がある場合に限る。

これが原則のはずです。

法律に基づき判断すべき裁判所が、「子が未成熟だから」というような曖昧な根拠を持ち出すべきではありません。

 

18歳を過ぎ成人したら、親と子はもはや成人同士です。

その後の生活費や学費等の負担は、成人同士、当事者同士で合意するのが原則のはずです。

裁判所の見解は理屈が通っておらず、説得力にも乏しいです。

成人年齢が引き下げになった以上、養育費の終期も原則として引き下げられるべきです。

 

 

男性側に立った離婚問題の解決を

一時の迷いや尻込みで後悔しないためにも、なるべく早い段階でご相談ください。