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AIと離婚

2025.11.28更新

ChatGPTなどのAIが普及し、弁護士の離婚相談も変わりました。

「ChatGPTで調べたんですが…」

「Geminiはこう言ってました」

と言われることが増えました。

 

従来の検索と違い、一般的な知識ではなく、自分自身の条件に合わせて回答してくれる。

疑問にそのまま会話で答えてくれる。

相談者の方が、弁護士の前にまずAIに聞くのも当然です。

 

では、AIは離婚に関する弁護士の仕事を奪うか。

そんなことにはならない。

自信を持って言えます。

 

そもそも、離婚についての法律や裁判所の仕組みは決して難しくありません。

AI以前から、インターネットで読めるような解説で十分理解できます。

裁判所や弁護士が関わる離婚は全体の一部に過ぎず、多くは当事者のみの協議離婚です。

専門家でないと理解できないのでは、制度として成り立ちません。

 

離婚事件で問題となるのは、知識や理解ではありません。

例えば、養育費の存在は知っている。

金額も算定表を見ればだいたい分かる。

でも、納得行かない。

なぜ、こんな金額をずっと負担することになるのか。

なぜ、この程度の金額で我慢しないといけないのか。

真の問題はこの「納得」の部分にあります。

 

納得できる方向を目指す。

結論に納得していただく。

そのために言葉を尽くして説得もする。

そういった部分がAIで代替可能だとはまったく思っていません。

 

コロナ禍以降、家庭裁判所の調停もウェブ会議方式が増えました。

ウェブ会議での調停を何件かやっての実感としては、調停はウェブ会議に向いていない。

なぜか。

理由は同じです。

対面で話さないと、「説得」や「納得」が難しいからです。

 

ウェブ会議すら離婚事件に向いていないのに、AIはましてや向いていません。

そこに人間がいないからです。

離婚事件は今後も人間が、対面で、扱うことに変わりは無さそうです。

 

財産分与が「不意打ち」でいいのか

2025.11.20更新

「不意打ち」という言葉があります。

辞書によれば

「相手のすきをついて攻めること」

を意味します。

 

「不意打ち」という言葉は民事訴訟に関する議論でも使われます。

民事訴訟での「不意打ち」とは、「弁論主義」を分かりやすく説明するための言葉です。

弁論主義とは、

「裁判所が当事者の主張していない事実を認定してはならない」

という民事訴訟の原則です。

なぜ当事者の主張していない事実を認定してはならないのか。当事者の主張していない事実を唐突に裁判所が認定して判決を下してしまったら、当事者にとって「不意打ち」になるから。というのが、法律の議論における「不意打ち」という言葉の代表的な使われ方です。

 

離婚における財産分与も、多くの当事者にとって「不意打ち」になってはいないでしょうか。

財産分与が「不意打ち」になってしまう理由は、「共有財産」という曖昧な概念のせいではないでしょうか。

 

財産分与とは、

「…離婚した者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」(民法第768条1項)

権利のことです。

なぜ財産の分与を請求することができるのか。

その理由は一般に

「婚姻期間中に築き上げた財産は、名義が夫婦どちらであるかに関わらず共有財産だから」

と説明されます。

ところが、「婚姻期間中に築いた財産は共有」というようなことは、法律のどこにも書いてありません。それどころか、民法には180度逆にも読めることが書いてあります。

 

「夫婦の一方が…婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。」(民法762条1項)

 

この条文は普通に読めば

「夫婦いずれかが自分で稼いだ財産は、その人の単独所有である」

と書いてあります。

同条2項にはさらにダメ押しでこう書いてあります。

 

「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。」

 

この条文を裏返せば、

「夫婦のどちらに所属するか明らかな財産は、共有財産ではない」

となります。

 

夫婦といえど財産は原則的に個人のもの。共有ではない。

これは夫婦別産制といい、民法の原則の1つです。

 

それなのに、離婚となると急に「婚姻期間中に築いた財産は共有財産」という話が出てきます。財産分与がしばしば「不意打ち」になってしまうのは、「共有財産」という概念が唐突に出てくるからです。昨日まで夫婦別産だったはずなのに、今日からは共有ということになってしまう。

 

離婚時の財産分与自体は、世界的にも一般的な制度です。

でも、たとえばアメリカのカリフォルニア州法では、そもそも

「婚姻期間中に取得した財産は原則的にコミュニティ・プロパティ(共有財産)」

とされています。

どちらか一方の単独名義で不動産を購入したとしても、基本的に「共有財産」として登録される。そもそも、婚姻期間中の収入時代が共有扱いで、2名分の収入を合算した上で双方に課税されることになっている。

そういった制度では、日本でのような「不意打ち」は起こりにくい。結婚を決める際から「何が共有財産で、何が特有財産か」を意識せざるを得ないからです。

 

「共有財産」という言葉は、普通はその財産が共有であることを表します。カリフォルニア州法におけるコミュニティ・プロパティ(共有財産)はまさにそういう意味です。

しかし、日本の財産分与時に使われる「共有財産」という言葉はそういう意味ではない。財産分与の対象となる財産のことを「共有財産」と呼んでいるに過ぎない。言葉の字面と意味がずれてしまっています。

 

どのみち離婚時には財産分与を行うんだから、結果は同じじゃないか。不意打ちだろうと何だろうと結果が変わらないならいいじゃないか、とも思えます。

しかし、離婚事件を多数扱う中で、そうとは言えない件を何度も見てきました。

 

財産分与が不意打ちになってしまうことの問題は、まず第一に、離婚後の予測が立ちにくいことです。婚姻中、日頃から夫婦の財産情報をきちんと共有していれば問題ありません。しか、そんな夫婦ばかりではない。いやむしろ、財産情報を共有している夫婦の方が少数派かもしれません。離婚に至る夫婦の場合はなおさらです。

婚姻期間中は夫婦別産なので、配偶者がどれくらい財産を持っているか知らない。なので、離婚したらいくら分与を受けられるかも分からない。離婚協議や離婚調停の中で財産の開示を受けてはじめて、自分がどれくらい受け取れるのか知ることになる。そういうケースは珍しくありません。

多額の分与を受けられると思って離婚協議に踏み込み、別居もした後で、大した金額を受け取れないことを知る。でも今さら後戻りできない。そういう場合、しばしば金額が少ないことへの怒りが元配偶者に向かいますが、怒っても始まりませんし、そもそも元配偶者が悪いのでもありません。制度自体の問題です。

財産分与を受け取る側であることを当然の前提として調停を申し立てたら、相手の財産が予想外に少なく、支払う側だった。そんなケースすらあり得ます。

 

財産分与が不意打ちになってしまうことには、他にも大きな問題があります。離婚に備え日頃から財産情報を握っていた側と、そうでない側との間の情報格差が、不公平な結果に繋がりかねないことです。

夫婦の一方が常に離婚を意識して財産分与への準備も怠らず、もう一方はそのような意識すらない。そういうケースでは、しばしば不公平な結果になってしまいます。何が財産分与の対象になるか日頃から意識し、一方で相手はそのような意識自体がないという場合なら、財産分与時により有利になるよう工夫する方法はいくらでもあります。詳しくは書きませんが。

 

もっとも大きな問題は、財産分与の「不意打ち」が相手への不信感を生み、紛争自体を深刻化させるリスクがあることです。こんなに財産が少ないなんておかしい。どこかに隠してるんじゃないか。過去の結婚生活にまで遡る疑心暗鬼が生まれ、紛争が長期化してしまう。残念ながら、そういうケースもあります。

 

財産分与が不意打ちにならないよう、当事者にできることには限界があります。より透明性を高め、不意打ちにならないよう制度自体が改善されるべきです。

男性側に立った離婚問題の解決を

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