婚姻費用はどこまでさかのぼって払う必要があるのか
2019.04.09更新
民法第760条
「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生じる費用を分担する。」
これが、いわゆる婚姻費用支払義務の根拠となる条文です。
夫婦には婚姻から生じる費用を分担する義務がある。
収入が多い方は、少ない方の費用を分担しなければいけない。
別居して家計が別れた場合、相手に費用を払わなければいけない。
ということで、多くの場合、出ていった側から、残された側に対し請求されるのがいわゆる「婚姻費用」です。
婚姻費用は、理屈では、別居したらすぐ請求できます。
ということは、別居から数か月分経ってから、数か月分の婚姻費用を一気に請求することはできるのでしょうか。
これについては、最高裁が
「家庭裁判所は過去に遡って分担額を形成決定できる。」
という決定を出していますので、過去分も請求できることになります。
ただし、別居開始からすぐ、ではありません。
婚姻費用分担請求の調停を申立てた時点から、です。
一方的に出ていった相手に、その時点から婚姻費用を支払え、では支払う側にとってあまりに酷だからです。
ただ、最近は、その点も見越し、別居と同時に婚姻費用分担調停を申し立てる、というパターンも増えてきました。
そこまで用意周到になってくると、ちょっと制度趣旨を逸脱してきているようにも思えます。
別居しても夫婦は夫婦だから婚姻費用分担義務を負う。
それは構いません。
また、さかのぼって請求できないと、逃げ得を許すことになるので、それも仕方ない。
ただ一方で、財産分与の基準時は婚姻破綻時です。
そして、婚姻破綻時というのは多くの場合、別居時です。
婚姻破綻しているのに、婚姻費用分担義務は残る、というのは少し納得しにくいです。
また、逃げ得を許さないというなら、別居しておいて離婚せず婚姻費用をもらい続ける、という意味での「逃げ得」が許されるのも釈然としません。
婚姻費用分担請求が認められるのは、もう少し限定的な場合に限られるべきではないか、というのが私の意見です。