調停はなぜ交互方式なのか
2020.08.21更新
家事調停は「交互方式」が原則です。
交互方式とは、当事者双方が交互に調停委員と話す進め方です。
調停当日、当事者双方はそれぞれ「申立人待合室」「相手方待合室」に入ります。
時間になると、調停委員がどちらかの待合室まで呼びに来ます。
呼ばれた方は調停室に入り、調停委員と30分ほど話します。
その間、もう一方は待合室で待っています。
次に相手方が呼ばれ、やはり30分ほど調停委員と話します。
そのターンを2回ずつ繰り返し、計2時間ほどで一回の調停は終わります。
その間、当事者同士は顔は合わせません。
これが「交互方式」です。
この方式を取る根拠は何でしょうか。
実は、家事手続法その他法律には何の規定もありません。
あくまで慣習として「交互方式」を取っているだけなのです。
しかし、この方式でなければいけない理由はあるのでしょうか。
そもそも、調停は話し合いです。
離婚等の家庭内のもめ事は必ずしも訴訟になじまないから、わざわざ離婚について「調停前置主義」が取られているのです。
しかし、調停委員に交互に事情を話して、相手の主張は伝言でしか聞けないやり方が果たして「話し合い」の本来の姿でしょうか。
話し合いなのだから、やはり当事者双方が同席して話し合うべきではないでしょうか。
実は、「交互方式」は決して一般的な方法ではありません。
アメリカなど諸外国では、当事者同士同席して話し合うのが通常です。
話し合いなのですから、当たり前です。
確かに、ただでさえ揉めているのだから、当事者同士顔を合わせたくない、という心情は理解できます。
感情的になってしまうかもしれません。
相手が怖くて思ったことが言えないかもしれません。
しかし、こと東京家庭裁判所では、相当割合の当事者は代理人弁護士をつけています。
代理人も同席しており、必要であれば全て代理人から話しても良いのに、なお同席では駄目な理由はあるでしょうか。
交互方式には欠点も多いです。
調停委員からの伝言でしか相手の主張を聞けないので、どうしても疑心暗鬼になる。
調停委員の伝言ミスの恐れもある。
顔を合わせないので、つい主張がエスカレートする。
当事者の言い分が本当なら、相手はほぼ狂人としか思えないようなこともあります。
私だけでなく、他ならぬ裁判官や調停委員がそう言っているのです。
調停の本来の姿は同席方式ではないか。
私はそう考えています。
同席方式が実現しない大きな理由は、当事者の抵抗もあります。
しかし、それ以上に裁判官を含む調停委員の自信の無さがある気がします。
葛藤を抱えた当事者を同席させ、話し合いを仕切るのは専門的な力量が必要です。
現状の調停委員はそのような訓練は受けていません。
しかし、一般の民事事件では、裁判官は当然のように紛争当事者を仕切って話し合いを進めています。
労働審判では、当事者同席の上、3回以内でほぼ全ての事件で和解をまとめています。
家事事件に限ってできないわけがありません。
定着した慣習を変えるのは難しいかもしれませんが、調停は同席方式が基本とされるべきです。