弁護士コラム

単身赴任は別居になる?離婚で争われるポイントを男性側の視点で弁護士が解説

お知らせ

単身赴任が関係する離婚の話し合いや調停で、次のような食い違いが生じることがあります。

妻から「何年も別居しているのだから、夫婦関係はすでに終わっている」と言われた

自分としては、仕事で単身赴任をしていただけで、別居のつもりはなかった

逆に、離れて暮らしているうちに気持ちが離れてしまい、離婚を考え始めた

単身赴任中の生活費を、どう分ければよいのか分からない

同じ「離れて暮らしている」状態でも、一方は別居と受け止め、もう一方は単身赴任と受け止めている。

このずれが、離婚の場面ではそのまま争いの種になります。

この記事では、

  • 単身赴任が法律上どのように扱われるのか
  • 別居とどこが違うのか
  • 離婚や生活費
  • 財産分与にどう関わるのか

を、男性側のご相談が多い当事務所の視点から整理します。

監修:弁護士 小杉 俊介
小杉・吉田法律事務所代表弁護士 / 保有資格:弁護士(東京弁護士会所属)


【学歴】
京都大学総合人間学部、一橋大学法科大学院卒業。

【経歴】
出版社(株式会社ロッキング・オン、株式会社平凡社)で編集者として勤務した後、弁護士へ転身。2017年4月、四ツ谷に小杉・吉田法律事務所を開設し、離婚・男女問題を中心に、相続、知的財産、企業法務など幅広い分野を手がけている。

【強み・理念】
中でも男性側の離婚問題には特に注力しており、感情的な対立に巻き込まれることなく依頼者の法的権利を明確に主張しながら、その後の人生や仕事まで見据えた解決を追求している。編集者として培った、物事を整理し的確に伝える力も活かしながら、依頼者と対等なビジネスパートナーとして一つ一つの案件に向き合うことを心掛けている。

監修:弁護士 小杉 俊介
小杉・吉田法律事務所代表弁護士 / 保有資格:弁護士(東京弁護士会所属)

【学歴】
京都大学総合人間学部、一橋大学法科大学院卒業。

【経歴】
出版社(株式会社ロッキング・オン、株式会社平凡社)で編集者として勤務した後、弁護士へ転身。2017年4月、四ツ谷に小杉・吉田法律事務所を開設し、離婚・男女問題を中心に、相続、知的財産、企業法務など幅広い分野を手がけている。

【強み・理念】
中でも男性側の離婚問題には特に注力しており、感情的な対立に巻き込まれることなく依頼者の法的権利を明確に主張しながら、その後の人生や仕事まで見据えた解決を追求している。編集者として培った、物事を整理し的確に伝える力も活かしながら、依頼者と対等なビジネスパートナーとして一つ一つの案件に向き合うことを心掛けている。

目次

単身赴任は別居にあたるのか

最初に確認したいのは、単身赴任が「別居」なのかどうか、という点です。ここを整理しておくと、後の話がわかりやすくなります。

法律上は、単身赴任も別居にあたります

民法752条は、夫婦に同居し、互いに協力し、扶助する義務を定めています。本来は一緒に暮らすべき夫婦が、現実には別々に暮らしている。

その意味では、単身赴任も別居の一種です。

「単身赴任だから別居ではない」という整理は、言葉の上では分かりやすいものの、法律の考え方としては正確ではありません。

ただし、別居していることと、婚姻関係が破綻していることは別の話です

では、単身赴任で離れて暮らしていれば、夫婦関係は破綻しているのかといえば、そうではありません。

離婚を裁判で求める場合の理由の一つに「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)がありますが、離れて暮らしているという事実だけで、これが認められるわけではないからです。

実際には、単身赴任中も頻繁に連絡を取り、帰宅のたびに家族で過ごし、生活費も十分に渡している夫婦は多くいます。この場合は、離れて暮らしていても、夫婦関係は続いていると見られます。

「単身赴任」という言葉が、別の目的で使われることがあります

離婚の調停や訴訟を扱うなかで感じているのは、「単身赴任」という言葉が、立場の違う双方から、それぞれ別の目的で使われやすいということです。

  • 一方は、実際には夫婦関係が上手くいかなくなって家を出ているのに、「仕事の都合」という形で別居を始める
  • もう一方は、夫婦関係の悪化を周囲に知られたくなく、体裁を保つために「単身赴任」という説明を使う

こうして、夫婦関係がすでに実質的に破綻しているのに、単身赴任という言い方で覆われてしまう例が見られます。そもそも、婚姻関係の破綻が議論されるほど長く続く単身赴任は、不自然だといえます。

そのうえで、現状では「単身赴任であれば別居ではない」という側に、評価がやや傾きすぎているのではないかと考えています。

もちろん、実際に夫婦関係が破綻しているかどうかは、個々の事情によって異なります。

単身赴任と別居の違いはどこにあるのか

法律上は同じ「別居」でも、実際の離婚の場面では、単身赴任と、夫婦関係の不和による別居とでは、扱われ方が変わることがあります。

この章では、その違いを整理します。

別居の理由と、夫婦の関わり方

単身赴任と別居の関係については、過去コラムでも触れていますので合わせて読んでみてください。

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単身赴任は、転勤命令など、仕事上の事情によって始まります。夫婦のどちらかが「離れたい」と考えて始まる別居とは、出発点が異なります。そのため、次のような点が重視されます。

  • 別居が始まった理由は、仕事の都合か、夫婦関係の悪化か
  • 別居の間、連絡や往来、家族としての交流が続いていたか
  • 生活費の負担や、家庭内の役割分担が続いていたか
  • 赴任の期間が、あらかじめ決まっていたか

婚姻関係の破綻が争われる場面

離婚を求める側は、「長期間別居しているから破綻している」と主張しがちです。これに対して、離婚を求められた側は、「別居ではなく単身赴任だ」と反論します。

この対立の中で、裁判所は、離れて暮らした期間の長さだけでなく、次のような事情を総合して、夫婦関係が破綻しているかどうかを判断します。

  • 連絡の頻度や内容(日常的なやり取りが続いていたか、途絶えていたか)
  • 帰宅や、家族での外出・旅行などの有無
  • 赴任先に家族が訪れたことがあるか
  • 赴任が終わっても、元の家に戻らなかったかどうか
  • 相手方に対する不満や、離婚の意思を、いつ、どのように示したか

「別居の期間が何年を超えれば破綻」と決まっているわけではありません。単身赴任のような事情がある場合は、とくに、離れて暮らしている期間そのものより、その間の夫婦のやり取りの中身が見られます。

男性側の立場から見たときの注意点

単身赴任をしている側(多くは夫)にとっては、気持ちが離れていないつもりでも、連絡の少なさや帰宅の頻度から、「すでに夫婦関係は終わっていた」と受け取られてしまうおそれがあります。

離婚を望んでいない場合は、赴任中も連絡や往来が続いていたことを示す資料(メッセージの履歴、帰省の記録、家族での予定が分かるものなど)を、残しておくことが大切です。

反対に、離婚を考えている場合も、別居の時期や理由を整理しておくと、その後の話し合いで役に立ちます。

単身赴任中の生活費と婚姻費用

離れて暮らしている間にも、夫婦は互いに生活を支え合う義務を負っています。この章では、単身赴任中の生活費と、離婚を考え始めたときの婚姻費用について整理します。

婚姻費用とは

婚姻費用とは、夫婦と未成熟の子が、通常の社会生活を送るために必要な費用のことです。民法760条により、夫婦は収入などに応じて、これを分担します。別居していても、離婚が成立するまでは、この義務は続きます。

実務では、別居の理由を問わず、収入の多い方から少ない方へ支払うのが基本です。

例外として、不貞をした側が一方的に家を出たような場合に、請求が権利の濫用として認められなかった裁判例もありますが、あくまで例外です。

この点は、次の「婚姻費用はいついかなる場合にも払わないといけないのか」のコラムで詳しく述べています。

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請求された時点まで遡って発生します

婚姻費用は、金額が決まるまでに時間がかかるため、請求した時点にさかのぼって支払うことになります。たとえば、請求から4か月後に月額10万円と決まれば、4か月分の40万円を支払う必要があります。

請求の方法は、調停の申立てが明確な方法ですが、弁護士からの内容証明郵便や、本人からのメールでも認められることがあります。どの時点で請求を受けたかは、後の金額に直結します。ここについても過去、「婚姻費用はいつまで遡る?」というコラムも書いているので合わせて読んでみてください。

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単身赴任ならではの論点

単身赴任の場合は、夫が赴任先で別の住居を用意し、家族が元の家で暮らす、という形が一般的です。このとき、家計は二重になります。

通常の別居であれば、婚姻費用は双方の収入と、お子さんの人数・年齢をもとに決めることが多いです。

単身赴任の場合は、赴任先の家賃や光熱費がどの程度かかっているか、会社から手当や社宅の提供があるかといった事情が、話し合いのなかで問題になることがあります。どこまで考慮されるかは、個別の事情によって異なります。

収入が変わったときの考え方

婚姻費用は、直近の収入をもとに計算します。赴任の終了や転職などで収入が下がった場合や、無収入になった場合に、働く能力があるとして、一定の収入があるものとして扱うよう求められることがあります。これを潜在的稼働能力の考え方といいます。

ただし、病気や就労が難しい事情がある場合など、安易に認めるべきでないという考え方もあります。実際のご相談では、ご事情をお伺いした上で見通しをご説明いたします。

別居の期間と財産分与

離婚の話では、財産分与も大きな論点です。この章では、別居の時期が、財産の分け方にどのように関わるのかを見ていきます。

財産分与の基準になる時点

財産分与(民法768条)は、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を分けるものです。基準になる時点は、離婚が成立した時ではなく、婚姻関係が破綻した時とされ、離婚に先立って別居している場合は、別居した時点とされることが多いです。

単身赴任では、破綻の時期が争われやすくなります

単身赴任の場合は、「赴任が始まった時点を別居の始まりとみるか」「夫婦関係が実質的に壊れた時点とみるか」で、基準時が変わる可能性があります。

基準時が数年違えば、対象となる財産の額も変わってきます。

とくに、役員報酬や株式、投資用の不動産など、資産の増減が大きいご家庭では、基準時の違いが分与の金額に大きく影響することがあります。単身赴任と別居の違いを意識して、事実関係を整理しておくことが重要です。

別居の際に預金などを持ち出された場合

別居の際に、配偶者が通帳やカードを持ち出し、預金を引き出してしまうことがあります。現状では、取り戻すのは難しく、財産分与のなかで調整するのが実務上の扱いです。この問題点については、次のコラムで述べています。

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お子さんがいる場合の注意点

単身赴任の間、お子さんは妻と元の家で暮らしていることが多いはずです。この章では、離婚を考え始めたときに、お子さんとの関係で注意したい点を整理します。

監護の実績が問われます

親権を決める際には、これまでどちらが、お子さんの日常の世話や教育を担ってきたかが、重要な判断材料になります。単身赴任中は、妻が日常の監護を担っていることが多いため、離婚の場面では、父親側が不利になりやすい傾向があります。

赴任中も、お子さんと連絡を取り、帰省の際には世話をし、学校行事に参加するなどの関わりを続けていたかどうかは、後で振り返ったときに意味を持ちます。

一方的に連れて出られることへの備え

お子さんのいる離婚では、先にお子さんを連れて家を出た側が、婚姻費用の請求や親権の面で有利になりやすい、いわゆる「連れ去り勝ち」が指摘されています。

連れ出される前に何らかの前触れがあることが多く、それに気づいた段階で早めに弁護士に相談し、先に動くことが、有効な対抗手段のひとつだと考えています。

ただし、すでに連れて出られた後にできることは限られます。詳しくは、次のコラムをご覧ください。

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海外赴任の場合は

海外への赴任は、国内の単身赴任とは、別の論点が加わります。たとえば、赴任先での夫婦の関わり方、帯同か単身かの選択、帰国後の生活の問題などです。

詳しくは、次のページにまとめています。

本記事は、国内の単身赴任を中心に説明していますが、海外赴任の場合は、上記のページもあわせてご覧ください。

離婚を考え始めたら、早めに整理しておきたいこと

単身赴任中に離婚を意識し始めた場合、あるいは配偶者から離婚の話を切り出された場合は、早い段階で状況を整理することが、その後の選択肢を広げます。

事実関係を記録として残す

赴任の経緯や期間、赴任前後の夫婦のやり取り、生活費の送金状況、お子さんとの関わりなどを、時系列で整理しておいてください。メッセージの履歴や送金の記録は、そのまま資料になります。

感情的なやり取りを避ける

離れて暮らしていると、電話やメッセージが感情的になりがちです。送った言葉が後から証拠として使われることがあります。やり取りの内容は、冷静に選ぶことをおすすめします。

弁護士を探すときの考え方

離婚の相談先は、事務所によって、得意とする分野や依頼者の傾向が異なります。弁護士を探す際の考え方については、「離婚弁護士の探し方/男性側の離婚に精通した法律事務所を選ぶ6つのポイント」の記事にまとめています。合わせて読んでみてください。

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単身赴任と離婚についてのよくあるご質問

最後に、単身赴任と離婚について、ご相談でよくいただく質問をまとめます。

Q. 単身赴任中の配偶者から、突然離婚を切り出されました。応じなければならないのでしょうか?

A. 離婚は、双方の合意が基本です。合意できない場合は、調停や裁判を通じて、離婚が認められるかどうかが判断されます。離れて暮らしているだけでは、直ちに離婚が認められるわけではありません。

Q. 単身赴任の期間が長くなると、離婚が認められやすくなりますか?

A. 期間の長さだけで決まるわけではありません。その間の連絡や往来、生活費の負担など、夫婦としての関わりがあったかどうかが、総合的に見られます。

Q. 単身赴任中に別居を理由に生活費を減らされました。応じる必要はありますか?

A. 離婚が成立するまでは、夫婦はお互いに生活を支える義務を負っています。金額の見直しを求めたい場合は、話し合いや調停などの手続きを検討します。

Q. 単身赴任中の財産は、財産分与の対象になりますか?

A. 婚姻中に築いた財産は、原則として対象になります。ただし、別居の時期をいつとみるかによって、対象の範囲が変わる場合があります。

Q. 男性側からの相談でも、対応してもらえますか?

A. はい。当事務所は、男性側の離婚のご相談にも対応してきました。単身赴任のように、ご自身では別居と意識していない状況でも、状況の整理から一緒に進めます。

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