離婚紛争に子を巻き込んでいるのは誰か
2022.10.02更新
子のいる夫婦の離婚調停に行くと、家庭裁判所で一本のビデオを見せられます。
「離婚をめぐる争いから子どもを守るために」と題された5分ほどの映像です。
Youtubeなどでも公開されていますので、誰でも見ることができます。
子どもの前で離婚について言い争いするのは止めよう。
子どもに対し「お母さんとお父さん、どっちと暮らしたい?」などと選択を迫るようなことはしてはいけない。
おおよそ、このような内容をまとめたビデオです。
私は、このビデオを待合室等で見るたびに複雑な思いになります。
ビデオの主張自体が間違っているとは思いません。
ただでさえ、親の離婚は子の心を傷つけます。
子に選択を迫り、責任を押し付けるのは大人として言語道断です。
離婚紛争に子どもを可能な限り巻き込まないことは、大人の義務です。
ビデオの主張自体には賛成します。
一方で、「離婚紛争に子を巻き込まない」というルールは、実際の紛争では守られていないケースが非常に多いです。
離婚についての話し合いに子どもが同席させられる。
一方の親がいない場で、その親に関する悪い情報が吹き込まれる。
「子どもが嫌だと言っているから」という理由で家から追い出される。
そういったケースが目につきます。
上記ビデオ自体、親に対し「そういった行動は良くない」と啓蒙する目的でつくられたものでしょう。
しかし、このビデオに効果があるかと言えば、私は大いに疑問です。
なぜなら、実際には上記のような親の行動の原因は「知識不足」「啓蒙が足りていないから」ではないことが多いからです。
「離婚紛争に子を巻き込んではいけない」ということを知らないからそういう行動を取る、というわけではないケースが多いのです。
悪いことだと知った上で、敢えてそのような行動を取っているのです。
それは何故か。
答えはシンプルです。
「その方が離婚紛争で有利だから」です。
離婚紛争に子どもを巻き込み、自分の側につけたほうが有利に働くことを知っているから、巻き込むのです。
「知っててやってる」のです。
なぜ、子どもを自分の側につけると有利なのか。
理由は1つではありませんが、私は最大の理由は「子どもの権利主体性が尊重されていないから」だと考えています。
子どもは親の離婚の利害関係者です。
自力で生きるのが難しく親に頼るしかないという意味で、最大の利害関係者と言ってもよい。
それにも関わらず、現行の離婚制度では、子どもを権利主体として扱っていません。
子ども独自の利害について主張するどころか、意見を表明する機会すらろくに与えられていません。
家事事件手続法65条に、子の意思を考慮する努力義務が定められていますが、まったくもって不充分です。
主体的に意見を表明する機会すら、実質的に与えられていないのです。
その結果どうなるか。
子ども自身が意見を表明できないのを良いことに、当事者双方が勝手に子の意見を代弁し始めるのです。
「子どもはこちらと住みたいと言っている」
「子どもは相手に会いたくないと言っている」
「子どもは今の家を出て行きたくないと言っているので、相手に出ていってほしい」
などなど。
子どもという神様のご託宣を勝手に代弁する巫女のようです。
子どもの代弁者という最強の地位を手に入れるための有効な戦法は何か。
子どもを離婚紛争に巻き込み、自分の側につけ、相手と対立するように仕向けることです。
子どもを離婚紛争に巻き込む親は上記の原理に基づき行動しています。
裁判所のビデオでの啓蒙程度でどうなる話ではないのです。
結局、子どもを権利主体として扱わずろくに意見表明もさせず、そのくせ親が代弁する子の意思は過大に評価するという、裁判所の運用が諸悪の根源です。
裁判所の運用自体が、親に「子どもを離婚紛争に巻き込む」動機を作り出しているのです。
自ら動機を作り出しておきながら、ビデオ程度でお茶を濁す。
裁判所の対応は欺瞞そのものです。
その欺瞞の最大の犠牲者は、もちろん、離婚紛争に巻き込まれる子どもです。